桜散る

桜の存在をすっかり忘れていた。


まだ20代の頃にお世話になった上司は、

「一度、気体になるまで仕事をしてみると、

見える世界が変わるよ」って言っていた。


その頃の私はまだ遊び足りなくて、

仕事よりプライベートを大切に生きていた。

気体になるまで、がどのくらいか、

具体的に何をしたら気体になるのか、

深く考えず、頭から湯気が出るほど働くことと、

勝手に解釈した。

それは、仕事以外やる事のない寂しい人たちの

悲しい働き方と勝手に決めつけて、

私には関係がないと知らぬフリを通してしまった。


今でもわからない。

気体になるってどういうこと?


桜の存在を忘れるほど働いたから、

それは必死で集中したと言えるけど、

気体になったとは違う気がする。

何度も、もうダメだって涙目になったから、

液体くらいはなったかもしれない。


その人の何気ない発言を今でも思い出すのは、

当時から何か刺さってたのかもしれないな。


私は、何がしたいのかよくわからない。

私は、どうなりたいのかよくわからない。


この世に生まれて死ぬまでを、

壮大なひまつぶしだと言うなら。


今日やっと桜を見た。

たくさんの桜吹雪と、緑の葉っぱ。


ああ、ほんとに遅かった。


彼の最初のメッセージ。

「生きててよかったという瞬間を、

たくさんシェアしよう」


これが今頃になって迫ってくる。

あの頃はまだ、この瞬間が二度と来ないとか、

人生一度きりとか、時間が有限だってこと、

全然わかってなかったから。

Mood

彼はモヤモヤが続いているって言う。


「そうなの?」って初めて知った風に言ったけど、

これまでの会話や文字や色々なところで、

何となく、何かあるのかなって思っていた。

でも私から聞くのも違う気がしていた。


だから今回、彼から話してくれて嬉しかった。

彼のそういう話を聞けて良かった。


競争や上下や分析や社会情勢や報酬や、

なんか堅苦しくて息苦しい。

男なんてそんなもんだって笑ってた。


私の最近の3大キライ用語。

「すべき」「あるべき」「should be」


ガタイが良くて顔がカッコ良くて

声が超カッコ良くて地図がわかる。

漢らしさ全開で、これ以上何か必要かしら?


お腹いっぱいで夜の繁華街を散歩した。

粗相に気をつけてたから、爽快に歩ける(笑)

彼がいなかったら怖くて行けない。

恐る恐る歩いたけど、それが新鮮。

肩がぶつかったら「おい!」とか絡まれそうで、

いつもより真剣に周りを見て歩いた。


彼が、寒いからって、片方だけ彼の手袋を

貸してくれた。

左手は手を繋いで彼のポケットの中。

ムフフ。

彼の手だけを頼りに進むピカピカネオン街。


彼にケーキを食べさせてもらって、

目の前のフォークをパクっとすると甘い。

背の高い彼を見上げると幸せ。

彼が私をぎゅうっとしたら、もう何もいらない。


本当はバイバイしたくなかったの。